恐怖と病院とYシャツ
関係ないけど印象深い悪夢的病院の出てくる映画というとこれもその一つ。
ただしこの予告編に病院のシーンはないのだけれど。
そして入院三日目。朝四時ぐらいから背中の痛みで目が覚める。ずっと寝返りも打たずに同じ姿勢で寝ていたら、こんなに身体が痛くなるとは。身体を起こそうとするのだけれど、さすがに傷口が痛い。何しろ昨日手術したところなんだし。
尿道にカテーテルが入っている。それがどうやらばたばたした足の下に挟んだらしくて、酷く気持ちが悪い。看護師さんがきて直してくれるまで、じたばたしたり寝たり起きたりする。
回診である。一番偉そうな人がちらっとみて、大丈夫だと指示したら、次に偉そうな人が順にドレーンを抜いていく。ドレーンは術後の様子を見るために体内に残されたチューブのこと。んで、糸を抜いてから「牧野さんドレーン抜いちゃっていいんですよね」と言い出す。えっ? ちょっと待ってよと思ってたら、いいよ、の返事が返ってくる。駄目だったらどうするつもりだった。また縫うつもりだったのかこの野郎とか思っている間に、ドレーンを一気に抜かれる。内臓を引っ張られる奇妙な感じがあって、すぽん、と一滴血を飛ばして抜ける。後は絆創膏を貼って終わりである。
それからしばらくして今度は看護師さんがカテーテルを抜きますと言う。入るときは全身麻酔だったので何も感じなかったが「これを抜くのは痛いですよ」と脅される。さんざん脅かされてから痛いです痛いですよ、はい。
ずるずるずるっとチューブがさきっちょから抜ける。ふんぬはああああ、と思わず声を漏らす。でも脅かされていたほどの痛みはなかった。良かった良かったと思っていたら、これ、おしっこの時が堪らなく痛いんですよね、とまた脅かされる。
やがて猛烈に尿意を感じて恐る恐る最初のトイレに行ってみると、それほど痛くない。尿道が既に壊死しているかもしれない。
しばらくして抗生物質の点滴が終わり、腕から針が抜かれる。これで私の身体に入っていた管はすべて取り去られたことになる。
この時点で起きる練習をしましょうと言われる。ベッドの背もたれを起こすだけのことなのだが、目眩をしそうになる。それでもしばらくじっとしていると、ちょっと落ち着いてくる。これ飲んで、と水を渡されて一口飲む。久しぶりの水。でもそれよりも、身体を起こすことが出来るのが嬉しい。背中の痛みがずいぶんと楽になる。
昼食が普通に始まる。五分がゆだけどきっちりおかずもついて一人前。さすがに半分も食べられず、後片付け。その後は本当に普通の食事が一日三回。
四日目以降となると、自分でもびっくりするぐらい身体の調子が良くなっていく。傷口は術後三日目で塞がってしまうらしい。食欲があるが、胃が小さくなっているのかあまり食べることが出来ない。手術前から肉類を食べなかったのだけれど、体重は7,8キロ落ちた。脂肪がなくなったというよりも、筋肉がなくなったような。
てなわけで、あっという間に六日間経ってしまった。私のやった腹腔鏡手術というのは、開腹手術に比べると圧倒的に身体に負担がかからない。野戦病院なら足の指に「放置」の札をつけられているようなもので、医者も「はいはい、それじゃまたね」という感じ。
斯くして六日後の朝には胆嚢を失って、変わりに中に入っていたという胆石を瓶に入れてもらって帰る。
帰宅して最初の風呂はさすがに気持ちが良かった。湯船にゆっくりとつかっていた私は、まさかその翌日にあのような連絡があろうとは思いもしていなかったのである。
つづく。
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